2021.06.03
社会的に子どもたちの不登校が問題になってから、教育に関わる現場では、不登校の子どもたちにも正当な教育の機会が与えられるように求めてきました。
その取り組みが実を結び、「教育機会確保法」が施行され徐々に社会に浸透しています。とはいってもまだまだ課題が多く、どのように活用するべきか試行錯誤が続いています。この記事では教育機会確保法の概要と課題について、またフリ-スクールとの関連性についても解説します。
教育機会確保法とは
教育機会確保法は文部科学省が策定し、2017年2月14日に施行されました。その最大の目的は、不登校の状態が続いている子どもたちに、学校以外でも教育を受けられる環境を整備することです。まずは、その教育機会確保法の概要をご紹介しましょう。
不登校の現状
2019年(令和元年)の資料によると、全国の小中学校で不登校になっている生徒数は181,000人あまりで、平成10年以降最多になっています。一方、高校での不登校は約50,000人で、前年よりもやや減少しています。
不登校の基準は、身体的・経済的な理由以外で、1年間に30日以上学校を欠席した場合であり、平成10年以降ほぼ12~14万人で推移していましたが、ここ数年増加傾向を見せています。また、不登校の55%以上は、90日以上欠席しているという状況です。
教育機会確保法の概要
冒頭でも述べたとおり、教育機会確保法の目的は、不登校の子どもたちに対して、国が十分な教育の機会を確保することです。
その基本理念は以下の5つですが、原文のままでは表現が複雑なため、分かりやすくまとめてご紹介しましょう。
- 1.すべての児童生徒が豊かな学校生活を送れるような環境づくりを行う
- 2.不登校の児童生徒それぞれの状況に応じた支援を行う
- 3.不登校の児童生徒も学校に来られるような環境整備を行う
- 4.年齢や国籍にかかわらず、児童生徒が能力に応じた教育を受けられるような教育水準を維持する
- 5.国、地方公共団体、民間団体は密接に連携をとる
他にもさまざまな規定が設けられていますが、要約すると、年齢や国籍を問わず、教育を受けるべき児童生徒は、学校またはそれ以外の場所で正当な教育を受けられるということです。
そこで注目されるのが、フリースクールの存在です。
教育機会確保法とフリースクール
フリースクールは民間企業やNPO法人、または個人により運営される施設で、主に不登校や発達障がい、学習障がいの子どもたちに対する教育を行っています。
教育機会確保法のもとでフリースクールに通うと、小中学校・高校の校長が承認すれば、学校でも出席扱いになるというメリットもあります。
特に、現在国としては新しい教育指導要領に基づき、「生きる力」として社会的に自立できる人材の育成を目指しています。その具体的な施策の1つが教育機会確保法であり、学校以外のフリースクールなどに対する支援を強化しているのです。
フリースクールには非常に多くのタイプがあり、学校への復帰をサポートするものから、学校への復帰は目標とせず、共同生活や自然体験などを取り入れるものなどさまざまで、基本的には一貫したカリキュラムを設けていません。
しかし、社会的自立が1つの目標であることから、子どもたちの自主性と主体性を尊重しながら、同時に社会的ルールに従った行動を身につけられる教育もしなければなりません。ところが一部のフリースクールには、自由放任型の教育に傾いてしまい、本来の役割を果たしていないという課題もあります。
今後フリースクールには、こうした問題を改善する取り組みが求められるでしょう。
教育機会確保法の課題
教育機会確保法とは一線を画す動きですが、現在日本ではインクルーシブ教育を導入すべきという意見の高まりもあります。
インクルーシブ教育とは、不登校や学習障がいの子どもたちが別の場所で教育を受けるのではなく、すべての子どもたちが同じ場所で教育を受けることです。
もちろん、教育現場の受け入れ態勢を整え、公的機関による支援も強化したうえでインクルーシブ教育を進めなければ、過去の学校教育と同様の結果になってしまうでしょう。
一方、教育機会確保法に基づいた教育では、不登校や障がいをもった子どもたちが、一種の隔離された空間で教育を受けることが進められます。この2つの教育方法にはそれぞれメリットもデメリットも存在するため、すべての子どもたちに平等な教育の機会を与えるためには、今後さらに議論を重ねる必要があるでしょう。
教育の主役は子どもたち
教育機会確保法によって、不登校の子どもたちに対する支援が強化され、学校以外の場所でもそれぞれに合った教育を受けられるようになりつつあります。一方で、学校に復帰する機会が減ったり、学校に通う子どもたちとの交流機会が減ったりという課題も指摘されています。
今後はフリースクールに対するサポートの整備や、インクルーシブ教育の導入も含めた教育全体の見直しも必要になるでしょう。
ただし、あくまでも教育の中心にいるのは子どもたちです。それぞれの個性を生かしながら、本人の意思で道を決めることができる環境を整えることが、教育関係者に求められることなのではないでしょうか。