2021.06.03
障がい者の就労問題については、国も積極的な支援を継続していますが、一度職に就いたもののすぐに離職してしまうという、定着率の低さが課題になっています。障がい者の就職率が上がっても、同時に定着率が下がってしまっては支援の効果が表れません。
現在国が定めた法律のもと、障がい者の就労から定着するまでを改善する取り組みが始まっています。この記事では、その中から就労移行支援と就労定着支援という2つの取り組みについて解説します。
就労移行支援と就労定着支援
就労移行支援と就労定着支援とは、どちらも「障害者総合支援法」に則って、障がい者の就労から仕事の継続までをサポートする施策です。具体的な支援は、就労移行支援事業所や、就労定着支援事業所などが主体となって行います。こうした事業所は、都道府県や市区町村により指定された一般企業、NPO法人、医療法人などが運営しています。
現在、少しずつ障がい者の就労機会が増えつつありますが、さらに多くの雇用を確保するため、まずは就労移行支援により職業訓練や就職活動などをサポートします。その後は、就労定着支援によって一般の事業所に就職した障がい者に対するサポートを行い、その職場定着率を高めるというように、2つの制度が補完しあいながら障がい者を支援するわけです。
就労定着支援による定着率の改善
就労定着支援を受けたことによる定着率の改善は、実際データ上の数値として表れています。障がい者職業総合センターが2017年4月に公表した「障がい者の就職状況等に関する調査研究」によると、定着支援を受けた人の1年後の定着率が73.2%に対して、受けていない人の定着率は52.6%と明らかな違いが見てとれます。
同資料によれば、定着率が高くなった理由として考えられるのは、就労前に職業訓練などの事前準備ができていたこと、就労時に連携機関による支援があったこと、就職後に支援機関による継続的なサポートがあったことなどが挙げられています。
就労後の定着率が低くなる要因
ここで、就労した障がい者の離職率が高くなる要因について考えてみましょう。この要因を詳しく分析してみれば、就労移行支援と就労定着支援で行うべきサポートの方向性が見えるかもしれません。
離職理由を分析してみると
再び「障害者の就職状況等に関する調査研究」のデータからですが、就労から1年未満で離職した人の離職理由は、自己都合が69.3%で、不明という回答を除けば、理由のほとんどを占めています。会社の都合による離職はわずか3.7%です。
さらに具体的な理由としては、3ヵ月未満での離職の場合は「労働条件が合わない」が19.1%、「業務遂行上の課題あり」が18.1%となっています。それが3ヶ月以降1年未満の離職理由になると、「障害・病気のため」が17.4%で最も高くなります。
定着率が低下する要因とは?
調査結果からすると、就労当初は仕事に馴染めないことから離職につながるケースが多く、しばらく仕事を続けていくうちに、身体的な部分で問題が生じて離職するケースが多くなるようです。
就労期間が長くなっていくにつれて、身体的な面での問題が大きくなり、総体的に仕事を続けられなくなるということは、まずは身体面でのサポートがあれば、離職率を下げることが可能になるのかもしれません。
就労定着支援のサポート内容
細かいことですが、自分で生活リズムを整えることが難しい場合、遅刻や欠勤が通常よりも多くなることが考えられます。
その結果、体調を崩したり、ストレスが蓄積して精神的に不安定になったりして、仕事の継続が難しくなるのかもしれません。そこで、就労定着支援事業所では、以下に挙げるような取り組みを行って、障がい者の職場定着率の向上をサポートします。
1)体調管理のサポート
就労定着支援事業所のスタッフが本人の体調チェックを定期的に行い、場合によっては医師によるアドバイスも行います。また、薬の服用のような特別な日課については、職場と相談して便宜を図ってもらうことも可能です。
2)精神面でのサポート
就労後の職場でのストレスが蓄積しないように、スタッフがカウンセリングを行います。さらに、職場での人間関係や環境に関しても、スタッフが間に入って改善を図ります。
3)生活面でのサポート
毎日の生活リズムを崩さないようにすることや、金銭管理の補助などもスタッフが支援します。同時に日常的な体調管理にもアドバイスを行います。
仕事に就くと同時に続けることが重要
これまで、障がい者の就労問題については、事前の職業訓練や就職活動などを支援することに重点が置かれていました。しかし、一定の効果は上げられたものの、今度は職場での離職率が高くなるという問題が指摘されるようになりました。
そうした課題を改善するために設けられたのが、就労定着支援の取り組みです。今後は、就労してからの障がい者サポートに重点を置くことで、障がい者の労働環境が整えられ、職場での定着率の向上が期待できるのではないでしょうか。