2020.10.23
「障害福祉という同じ社会課題に向き合っている現場スタッフ同士の意見交換の場がほしい」
emou事務局では、emouをご利用いただいている方同士の交流の場として、定期的に座談会や支援者交流会を開催しております。 今回は、「自己理解、自立〜思春期の利用者にどう向き合うか〜」をテーマにして、放課後等デイサービス(以下「放デイ」)の現場でご支援いただいている皆様にオンラインでお集まりいただきました。 今回のテーマは、
「自己理解、自立〜思春期の利用者にどう向き合うか」
この座談会では、emouに関することだけではなく、様々な支援方法や施設運営に及ぶまで、当初予定していた1時間では収まりきれないくらいの熱い意見の交換ができました。 3回に分けてレポートいたします。
座談会開催レポート:「自己理解、自立〜思春期の利用者にどう向き合うか」 Part 1 座談会開催レポート:「自己理解、自立〜思春期の利用者にどう向き合うか」 Part 2はコチラ。 座談会開催レポート:「自己理解、自立〜思春期の利用者にどう向き合うか」 Part 3はコチラ。
放課後等デイサービスにおける支援と取り組みは、「体験」することで見えてくる 施設利用者様の「自己理解」「自己決定」「自己選択」そして「コミュニケーション」の必要性
――株式会社ジョリーグッド 青木(以下、JG青木)
放課後等デイサービスなどの支援としては、小学校低学年のうちは、衝動的に動いでしまうことや、悪気のない相手に怒ってしまうなど、いわゆる目に見える困り感が多く、またその目に見える困り感の解消という点が優先になっているとお聞きします。
しかしながら、小学校高学年以上、中高生になりますと、目に見える困り感が少なくなってくる一方で、将来の自立のために、これまでとは異なる支援が必要になってきます。
今回は、思春期のお子様に対しての支援の在り方について、実施されている活動や、取り組み、或いはその活動のなかでの課題などを、共有していただきます。
そして、更により良い支援や、施設運営についての意見交換ができることを望んでいます。 現在どのような支援を行われているのかを教えてください。
土日は「キッザニアの企業版」で、大きな企業の一員となって「働く」をイメージ 平日はお子様の自己理解を深める個人セッションを(株式会社Kaien)
――株式会社Kaien諸見里様(以下、Kaien諸見里様)
支援内容は、主に二つあります。
週末の集団セッションと、平日の個別セッションです。週末は、お仕事体験を複数人のセッションで実施しています。 利用者に説明するときは「キッザニアの企業版」という言葉を使っています。 キッザニアだと消防士やピザ屋などのお仕事が多いイメージですが、「キッザニアの企業版」とは、経理部や人事部といったいわゆる企業の社員を体験してもらい、自分に合った仕事はどんなものなのか、こういう仕事が自分に向いてるのかも?、という体験をしてもらっています。
平日は個人セッションで、お子様の自己理解を深めるための活動をしています。 emouを使いながらのSSTで、自分はこういう場面でコミュニケーションが取れないな、とか、逆にこういう場面だと輝けるかもしれないなというところを見つけてもらう、或いは、スタッフと面談などを行って、自分の将来なりたい職業や、自分の目指す姿などを見つけてもらうということを行っています。
いずれも、支援の目的は、自己理解をして、自分で決めた進路に進んでほしいということです。 研究結果でも、大人が押し付けた進路ではなく、自分で決めた進路、自分でこうしたいと決めたお子様のほうが、将来的な幸福度が高まっているというデータがあります。 その研究データに基づいて、お子様の自己理解、自己決定を育んでほしいと思っています。
――JG青木
週末、土日のお仕事体験の「キッザニアの企業版」という表現がとても分かりやすいなと思いますが、具体的にどんな会社を体験しているのでしょうか? たとえば、経理などがあると仰っていましたが、どんな会社で、上司や部長などもいるのでしょうか?
――株式会社Kaien野田様(以下、Kaien野田様)
はい、「TEENSホールディングス」という巨大会社に、お子様達は既に入社しているという設定でスタートします。 私たちスタッフ(支援者)も、同社の社員として働いております。
この世界観を体験してもらうために、様々なプログラムを用意しています。そして、3〜4ヶ月に1度、部署異動があります。 これによって、複数の部署を転々としながら、様々な仕事に取り組んでもらいます。
例えば、経理部や人事部などは、会社には普通にある部署ですが、お子様達が普段生活しているとこころでは見えません。そういったお仕事に就いてもらいます。 また、漫画アシスタントやカメラマンなどの専門的な技術が必要な仕事もあります。 PCを使うプログラムも用意しており、Googleカレンダー、Word、Excel、PowerPointなどを利用するいわゆる事務系のお仕事や、スクラッチ、HTML、コードを使ってWebサイトを作るといった、よりPCに特化してチャレンジしてみたいお子様向けのプログラムもあります。
企業ですので、会議をしたり、お金を取り扱う、接客、依頼を受けてPCを使って何かを作り上げていくなど、その他、手先を使ったり体を動かしたりと、多岐に渡ってプログラムを用意しています。
「TEENSホールディングス」では、皆さん、研修生からスタートして、お給料の代わりにポイントを稼いでもらいます。 良かった点やノルマの達成など、お仕事に対しての評価を受けて、そのポイントを貯めていくと、研修生から新入社員、新入社員から一般社員になど、昇進していきます。 昇進を目指して頑張ってもらっています。
――JG青木
長期に渡っての、ロールプレイングですね。
――Kaien野田様
そうですね。 長く通っていただいているお子様は、今や副部長です。 みんなからの憧れの存在になっています。(笑) ――JG青木 なるほど、社会をKaienさんの中で、擬似体験する感じですね。
――Kaien野田様
そうですね。 ごっこっぽくなってしまうのは否めませんが、、、、 企業の社員として、みんな社員証を首から下げたり、利用する道具も実物を用意して、本物のお仕事としての世界観を作るための場作り、プログラム作りを意識してやっています。
――株式会社UNITED CIRCLE川村様(以下、UNITED CIRCLE川村様)
ロールプレイングで会社を設定しているとのことですが、放デイの施設の中で実施しているのでしょうか? それとも別の場所ですか?
――Kaien諸見里様
お仕事体験は、放デイの枠の中で、放デイの施設で実施しています。 今は、様々な事情(新型コロナウイルスなどの影響)で実施できていませんが、夏休みなどの長期期間で実施可能な時は、Kaienの就労支援で繋がりのある企業に見学に行くということも実施しています。
――UNITED CIRCLE川村様
なるほど、普段のお仕事体験は、放デイの中でその場で設定を変えて工夫されているのですね。
「マインクラフト」から学ぶ、建設的な考えと、物が作られる仕組みや想像力 そして、お子様同士のコミュニケーションの大切さ(株式会社UNITED CIRCLE)
――UNITED CIRCLE川村様
放課後等デイサービスADVANCEで一番大事にしているのが、コミュニケーションの必要性です。 今、実施しているのが、PCで「マインクラフト」というゲームを、みんなで共通のワールドに入って、一緒にいろんなものを作ることです。 小学校1年生から中学生まで、「マインクラフト」に興味を持っているお子様が一緒に遊んでもらっています。
そして、そのなかでよくあるのが、ブロックを壊した・壊していないなどで喧嘩になることなんです。 そんなとき私たちスタッフからは、皆で話し合って解決しましょう、遊びたいのであれば自分たちでルールを決めましょう、ということをお子様達に伝えています。
また、休憩時間をとることや、やりたくない場合はゲームから抜けることも、自分達で考えるようにとも伝えています。 「マインクラフト」以外では、iPadでデジタルアートのプロクリエイトというアプリで、集中しながら、楽しんで絵を描いてもらっています。 もともと絵を描くことが好きなお子様も多いですね。
新型コロナウイルスの影響で今はまだ企画段階ですが、お子様達が描いた絵や作品を、マグカップやTシャツなどにデザインをして、販売することを検討しています。
先ほどのKaienさんの話でもありましたように、お金を産む方法を学んでほしいと考えています。 当施設は主に放課後に施設に来てもらうよう送迎を行っていますので、学校で疲れているだろうということで、平日はあまり詰めて何かをするというよりは、息抜きに近いものを遊びながら学んでもらうようにしています。
土曜や祝日は、施設に滞在する時間が長いので、様々な取り組みを実施しようと考えています。
――JG青木
お子様の絵のデザインのマグカップやTシャツなどはどのように販売しますか?ネットの出品など?
――UNITED CIRCLE 川村様
ネットの出品も考えています。ですが、手売りが一番ですね。 地域のお祭りや、別府市が企画しているイベントに出店したり、マルシェのようなところに参加しても面白いと思います。 自分の作ったものが世に出て、価値になるんだということを、自己肯定感が低いと感じているお子様などへは、自分たちの価値を見つけてもらう良い手段になると考えています。
――株式会社まなぶ 中川様(以下、まなぶ 中川様)
「マインクラフト」を使われているとのことですが、ゲームを遊ばせることについて、保護者への説明はどのようにしていますか?
――UNITED CIRCLE川村様
保護者が、そもそも「マインクラフト」を知らない、というところからスタートすることが多いです。 また、ゲームであることは伝えています。 そのうえで、「マインクラフト」とは、マイクロソフトという大きな会社が制作している、教育現場で使われて活用されている実績があるゲームだということを説明しています。
マイクロソフトが単なる遊びのためではなく、学校などで思考を育む目的で制作されていること、建設的な考えや、物が作られる仕組みを考えたり、皆で協力して何かを作ることができることでコミュニケーションが育まれるなど、お子様達にとってプラスになる作用が見込まれるゲームであるということを話します。
ただ、ゲームであることには変わらないわけで、ゲームのやり過ぎはよろしくありません。適切な時間内でのプレイや、休憩をとりながら、また他にもお子様達に興味のあるものをこちらから提供したりと、「マインクラフト」はあくまでも支援のツールのひとつとして使うという目的で利用しています。
――まなぶ 中川様
ありがとうございます。 もう1点、PCやiPadの利用については、お子様の放課後の時間で、どのような時間配分で活動されていますか?
――UNITED CIRCLE川村様
下校して宿題をやった後、送迎が始まるまでの1時間程度、PCでは「マインクラフト」を、iPadではYouTubeで動画を見たり、絵を描くアプリで絵を描いたりしてもらっています。 この1時間を子供達が集中できる時間として活動し、集中が切れた時は申告してもらうようにしていて、「今日はここまでできた」という話をしたりしています。
そして、私たちも、お子様達が作ったものを見て驚くことがあります。 小学1年生の子がこんなに凄いものを作るのかっていう、大人の想像を超えるものを子供達は想像力で作っています。
自己選択と自己決定をしてもらうことで、お子様の活動への参加が100%に(株式会社まなぶ)
――まなぶ 中川様
今回、思春期の利用者についてとのことですが、私が施設長をしている放デイココトモステップ西尾徳次校の話をします。 プログラムは主に、SSTとグループワークとPCの3つを柱にしており、その中のSSTでemouを使っています。 施設のコンセプトは、自己選択と自己決定をメインに据えています。
また、平日は主に小学生が通所していますが、小学生の方に対しては、療育活動を3つほどこちらで用意して、毎日どの活動をするのかを自分で選んでやってもらっています。
通常、弊社の他の施設でも、ひとつの活動をみんなでやるということがほとんどで、その場合、なかなか参加できない子ややりたくない子も多いです。ココトモステップ西尾徳次校では、お子様が自分で選んで取り組むという意識を持ってもらうことで、お子様達の活動への参加は今のところ、100%できています。 活動を通してお子様達に興味関心を拡げていってもらいたいと考えていますし、様々なことを学んでもらいたいとも思います。
――JG青木
曜日を限定したうえで、中高生を同じレベル感で実施しているということですか?
――まなぶ 中川様
そうですね。 中高生以上になってきますと、時間的に、なかなか放課後に通うのが難しくなってきます。 また、土曜日だと部活動があったり、学校のイベントがあったりなど、施設の利用ができない方も多いです。
そのために、日曜日を開所することになりました。 日曜日だと、ほとんどの方が休むこともなく通所できています。中高生にとっては、日曜日が通いやすいのかなと思います。
「実験」で、何かが出来上がる、形や色が変わっていくことに、深く興味を持つ(一般社団法人全国就労支援協会)
――一般社団法人全国就労支援協会 牛田様(以下、就労支援協会 牛田様)
やるきゃん土浦校は4月に開所したばかりで、もう少しお子様達が集まってほしいところです。 地域で初めての就労準備型の放デイなのですが、その内容などが相談員や学校の先生などに、なかなか伝えられずにいます。 今実施している支援としましては、宿題などの学習支援からはじまって、漢検の勉強やPCなどを行っています。 PCを今までまったく触ったことがないというお子様が多いので、ローマ字の入力から一緒にやっていっています。
SSTでは、人の話を聞く、尋ねられたら答えるといったことがスムーズにできるようにと、プログラムを組んでいます。 また、お子様が一番喜ぶものがあります。「実験」と題して、スーパーボールを作る、クレヨンを溶かして混ぜて固めて好きな色のクレヨンを作る、小麦粘土を作るようなことがとても人気です。
また、弊社はもともと就労支援A型が中心でしたので、そちらのお仕事の体験をこちらでも実施しており、自己紹介の練習や名刺交換の練習なども実施しています。 自分で何もできないお子様がとても多いのですが、これからの就職に向けて、ひとりで公共の交通機関に乗るとか、自分でお昼ご飯を作れるといった、自力で生活の物事が行えるようにということに力を入れて頑張っていこうと考えています。
なお、実際の支援の提供方法については、新型コロナウイルスの影響でずっと学校の休校が続いていましたので、その間は、10時から17時まで、50分授業を繰り返して実施していました。
――JG青木
実験の評判が良いとのことですが、お子様達は、何かが出来上がるということが嬉しいと感じるのでしょうか。
――就労支援協会 牛田様
子供達は、形や色が変わっていくというのが大変興味深いようですね。