2021.02.22
コーピングスキル(coping skill)とは、対処能力を指す言葉で、発達支援の現場ではストレスに対処する方法であり、考え方でもあります。 発達障害とストレスとは、さまざまなシーンで切り離せない関係になっています。今回は、効果的なストレスへの対処法として、発達支援の場で活用できるコーピングスキルについて解説します。 人間には、もともとストレスに対処する能力が備わっています。しかし、対処能力を超えるストレスにさらされると身体や精神的トラブルを発症することもあります。 私たちは常に何らかのストレスと向き合っており、健康な人でもストレスがない状態はありえないといわれています。ただし、ストレスにもレベルがあり、それに対する私たちのほうにも、ストレスへの抵抗力には違いがあります。 ストレスにはアレルギー症状と同様に、原因となるストレス源(ストレッサー)が存在しており、人はストレス源にさらされると、自然に備わった力で対処しようとします。正しく対処されれば問題ないですが、対処しきれないほどストレスが強かったり、長期的に続いたりすると防御システムが崩壊します。こうした事態を私たちは悪い意味での「ストレス」と呼ぶのです。 ストレスに対処する「ストレス・コーピング」は、アメリカの心理学者リチャード・S・ラザルス氏が提唱した理論です。人は本来身に備えているストレスへの抵抗力に加えて、コーピングスキルを高めることで、より上手にストレスに対処できる可能性があるのです。ラザレス氏のコーピングスキルは、大きく2つの種類に分けられます。1つめは「問題焦点型コーピング」で、ストレス源そのものを取り除くか、もしくは小さくすることでストレスを軽減する方法です。 もう1つは「情動焦点型コーピング」と呼ばれ、ストレス源に対するとらえ方を転換することで、それをストレスとして認識しなくても済むようにする方法です。いずれの方法でも周囲の協力が得られれば、より効果が高まるといわれています。 最近ではストレスマネジメントの手法として、ビジネス界でもストレス・コーピングをとり入れる動きがあります。しかし、ストレスを感じるのは大人だけではありません。ここからは、発達障害を抱えた子どもたちのコーピングスキルについて解説します。 ストレス源は外部にあるものとは限りません。発達障害などを抱えた子どもたちは、自分をうまく表現できないと強い内的ストレスを感じてしまうことがあります。それが引き金となり、場合によっては自身の感情をコントロールできなくなる可能性もあります。 発達支援の現場でも、表出性言語障害や受容性言語障害などの症状がある子どもたちは、そのことが自分の内部から生まれるストレスになり、改善を遅らせる原因になることがあります。こうした場合には、子どもたちもコーピングスキルを高める必要があります。 ストレスを感じた子どもたちは、不安感や怒りを感じたり、引きこもりがちになったりします。このような場合、以下の適切な方法で子どもたちのコーピングスキルを高めてあげなければなりません。 ・いつもより注意深く見守ること。 ・優しく話しかけ、安心感を与えること。 ・積極的に遊んだりリラックスしたりできる環境を提供すること。 ・なるべく1人だけにしないこと。 ・決まった時間とスケジュールに従った活動を心がけること。 ・現在行われている活動や、できごとについて分かりやすく説明すること。 これらの取り組みにより、ストレス源を解消しながらコーピングスキルを高められれば、発達障害の改善に繋がる可能性があります。 ストレス・コーピングとコーピングスキルのアセスメントについては、ラザルス氏の理論をもとにした、「SCIラザルス式ストレスコーピング・インベントリー」という評価テストがあります。ただし、成人を対象にしたテストのため、発達障害者支援の場で活用するなら「Vineland-II(ヴァインランド・ツー)適応行動尺度」という検査方法がよいでしょう。 Vineland-IIでは、0歳から92歳までの年齢層で、一般人の適応行動を基準にして、発達障害や知的障害の人の適応行動を、客観的に数値化して評価することができます。適応行動とは、「個人的・社会的な充足を満たすために必要な日常生活における行動」と規定されており、年齢によっても異なり、潜在的な能力や可能性を測る尺度ではありません。 適応行動を4つに大別し、Vineland-IIではそれぞれ「コミュニケーション」「日常生活スキル」「社会性/対人関係」「運動スキル」に分けて評価します。Vineland-IIを使うと、日常生活の中での対象者の適応能力を評価できます。 発達障害の子どもたちは、外部と内部からのストレスにさらされ、それが改善にマイナスの影響を与えている可能性があります。早めにストレス・コーピングを始めることで、子どもでもコーピングスキルを高め、発達障害の改善に効果を発揮する可能性も考えられます。