療育〜個人に適した発達支援、多様な手法、実践の基本〜(1) | ソーシャルスキルトレーニングVR

2019.06.28

自閉スペクトラム症は脳の特性であり、治療により治癒する病気とは違います。「療育」と呼ばれる手法によって、子供の状態に合わせた発達支援を行います。 療育とは、「治療教育」の略で、。それぞれの状態や障害特性にあわせて、社会を生きる術を身に付けてもらい、生活上の困難を軽減することを目指します。
もちろん、自閉スペクトラム症の持つ特性を全て取り去るということはできません。しかし、社会における生きづらさを軽減していくことは可能です。 ですから、療育は障害自体を治療するということではありません。障害によって起こりうる生きづらさを軽減し、個人個人がより快適な社会生活を送っていくためのものだと考えていただければと思います。
子供たちの発達の状況は、当然ながら個々の子供によって様々です。それぞれの発達状況や特性、実際に直面している課題を適切に評価し、その子供に適した計画やプログラムを個別的に考えていくことが、療育では重要になります。 子供の状態に合わせた教育や支援を行うことで、その子供が持っている力を適切に引き出すことができます。できることを少しずつ増やしていき、主体的に生きていく力を育てていきます。成長のスピードは子供によって違うかもしれませんが、仮にゆっくりであっても、子供は確実に発達していくのです。
療育には、支援者と一対一で行う個別療育と、少人数の集団で行うグループ療育があります。子供の発達状況は個人によって大きく異なります。個人差はありますが、まずは個別療育で柔軟に対応し、一定の対人関係スキルを身につけたうえで、グループ療育に参加させるという流れが一般的です。 ◆個別療育 言語や認知、手先の操作や全身運動などの指導や支援を行います。その子供の状態や特性に合わせてプログラムを組み、柔軟な対応を行います。 ◆グループ療育 二人から五人程度のグループで行います。ゲームや遊びなどを通じて、コミュニケーションや社会性、集団における生活習慣などを身につけてもらうことを目的とします。   療育と一口に言っても、用いられる方法は多様です。代表的なものはTEACCH、ABA、PECS、感覚統合法、RDI、ビジョントレーニングなどです。 現在は多様な療育方法が現場で実践されていますが、これらはどれかひとつの方法を用いればよいというものではありません。子供たちの状態に合わせ、様々な療育方法を適切に組み合わせることで、より効果的な療育を行うことができるのです。 下記では、それぞれの療育方法について簡単に説明していきます。
TEACCHとは、Treatment and Education of Autistic and Related Communication handicapped Childrenの頭文字をとったもので、「自閉症及び関連するコミュニケーション障害を抱える子供たちのための治療と教育」という意味です。 子供の発達状況、特性に合わせた環境や作業手順を用意することで、困難を軽減し、子供が自信を持って物事に取り組む姿勢を育みます。
TEACCHの手法の一つが「構造化」です。物理的構造化では、隣が気にならないようパーテーションで区切ったり、雑音を避けるためのイヤホンを使ったりすることで、子供が行動しやすい環境を整えます。 視覚的構造化は、環境や情報を「見える化」する、ということです。自閉スペクトラム症を抱える子供の多くが、耳で聞いた情報よりも、目で見た情報を理解することの方が得意だと言われています。こうした特性を踏まえ、身の回りの情報を視覚的なデザインに置き換えてあげることで、子供に理解しやすい環境を作ります。 スケジュールを絵や文字を使って可視化することで、子供はその内容を理解しやすくなります。また、それによって今後の行動を予期できるので、混乱を軽減することにも繋がります。
ワークシステムという考え方もTEACCHの支援方法の一つです。自閉スペクトラム症を抱える子供の中には、二つ以上のことを同時に行うことが苦手な子がいます。 一連の作業を一つひとつ区切り、行うべき順番に並べて示します。並行処理をしないで済むような作業手順を設定することで、混乱することが少なくなります。行動の手順を文字やイラストで示すなどして「見える化」すげると、さらに効果的です。   ABA(Applied Behavior Analysis:応用行動分析)は、子供の「好ましい行動」を増やし、「好ましくない行動」を減らしていくことを目的とした療育方法です。ABAには大きく三つの要素があります。 まず一つ目の要素は、子供が好ましい行動をした際には、褒めることを繰り返して、好ましい行動を増やしていくことです。逆に、好ましくない行動をしたときには、その行動には注目せず、好ましくない行動が自身にとっても好ましくないことを覚えさせます。 二つ目は、子供の好ましい行動を増やすためにサポートすることです。ABAでは、これを「プロンプト」と呼びます。とにかく好ましい行動が成功するよう手助けをし、回数を重ねるなかで徐々に手伝いを減らしていきます。

三つ目は、子供が学んだ「好ましい行動」を、誰とでも、どんな状況でも行えるようにすることです。これを「汎化(はんか)」と言います。なぜなら、特定の支援者となら好ましい行動をとれるようになっても、他の人とではそれがうまくできない子供も多くいるからです。

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