2021.02.22
表出性言語障害は、言語における理解能力に比べて使用能力が低く、表出性言語障害は、言語の使用能力が一般的な水準以下と診断されるケースです。 今回は表出言語をテーマに、その特徴と診断基準、発達障害支援などでの取り組みについて解説します。 人間の言語能力は、相手や周囲の人が話している内容を理解する「受容言語」と、自分の伝えたいことを言葉で表現する「表出言語」に分けられます。表出言語は自分の意思や気持ちを伝えるコミュニケーションには必要不可欠です。 受容言語が一般的水準に達していても、苦手な方は、発達障害の観点からすると、表出性言語障害と診断される場合があります。分かっていても、自分が言いたいことを適切な言葉で伝えられないという症状です。 では発達障害支援を行う立場からすると、表出言語と表出性言語障害をどのように扱えばよいのでしょうか。ここで対策まで含めて検証してみましょう。 通常は1歳半までに意味を持った単語を話さない場合や、3歳までに2語文を話さない時には、表出性言語障害の可能性が疑われます。具体的には「あれ」や「これ」などの代用語の使用が非常に多く、特定の対象物を表す言葉が出てこない状態です。 新しい言葉を覚えることも難しく、文法の仕組みを理解することもかなり困難です。言葉の代わりに身振りで表現することが多くなり、欲求不満やストレスを抱えるようにもなります。ただし個人差が大きいため、一定の基準で診断することが難しくあります。 表出性言語障害の子どもを支援する場合は、口唇や舌の基本的運動を行うことと、言語療法とを並行して行う必要があります。また、言語の専門家が保護者に対して治療方法を指導することで、家庭でも日常的に治療を続けられるようにします。 表出性言語障害では、口腔内の運動機能にも遅れが見られる場合があります。対策として口唇や舌の基本的運動を行いますが、一例としては子どもに鏡を見せながら発音してもらい、口唇や舌の動かし方を教えるという方法も可能です。 言語療法は一般的に、最初に1音節の単語の発音練習から始めます。次に2音節単語の練習ですが、まずは「ママ」「みみ」「もも」など、同音節の単語を繰り返し練習します。発音に問題なければ、異音節単語の練習に進み、発音できる単語数を少しずつ増やします。その後は、言葉を発するスピードを上げながら文法的な要素も徐々に教えるようにします。こうした練習を続けることで、表出性言語障害の50%~80%は、子どもが学齢期を迎える頃には解消されるといわれています。 表出性言語障害が起こる原因は、未だ特定されていません。現状では、大脳の発達遅延もしくは微細な損傷、または遺伝的要因などが考えられています。さらに、左利きとの関連性も報告されており、脳の非対称性に原因があるともいわれています。 表出性言語障害が疑われる場合の判別方法としては、すでに説明したように、1歳半から3歳程度までの子どもの言語使用状況を観察することが基本です。 精神疾患の判別基準としては、WHO(世界保健機関)の国際疾病分類ICD-10とアメリカ精神医学会のDSM-5がよく知られています。現在の検査方法では、「Vineland-II(ヴァインランド・ツー)適応行動尺度」が採用され、適応行動の発達水準を判別する基準として世界的に評価されています。Vineland-IIでは、0歳から92歳までの年齢層で、一般人の適応行動を基準にし、発達障害や知的障害の人の適応行動を客観的に数値化して評価することができます。 適応行動とは、「個人的・社会的な充足を満たすために必要な日常生活における行動」と規定されており、年齢によっても異なり、潜在的な能力や可能性を測る尺度ではありません。また、適応行動を4つに大別し、それぞれ「コミュニケーション」「日常生活スキル」「社会性/対人関係」「運動スキル」に分けて評価します。さらに、この4つには下位領域の評価があり、表出言語についてはコミュニケーションの一領域として分類されます。 Vineland-IIを使った評価では、適応行動の「個人間差」と「個人内差」との2つを知ることができ、またIQテストと同じ評価システムのため、双方を容易に比較できる点でも優れています。 言語能力の発達には個人差があり、他の子どもたちに比べて少し遅れがあっても、ほとんどの場合は学齢期に達すると自然に解消されます。しかし、表出言語はコミュニケーションの上で非常に重要であり、周囲が早めに気づかなければ、子どもが苦労するだけでなく、強いストレスの原因になる可能性もあります。 発達障害支援の現場では、Vineland-IIによる評価も視野に入れながら、表出性言語障害が疑われる場合には、基本的運動と言語療法とを組み合わせた適切な支援を行うことが重要です。