自閉スペクトラム症とは〜発達障害の一つ、幅広い自閉症の総称〜 | ソーシャルスキルトレーニングVR

2019.06.01

自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder: ASD)は、日本では発達障害の一つとして知られています。中核的な症状として、社会性やコミュニケーションのほか、行動や興味、感覚などに特性があらわれます。また、症状は発達早期からあること、社会生活に支障をきたしていることが、診断基準に含まれています。しかし、自閉スペクトラム症、全ての人に同じ症状があるわけではなく、特性のあらわれ方は多様で、また、程度の差もそれぞれです。 そのためかつては、知的障害が目立つタイプをカナ―型自閉症、知的障害が目立たない場合は高機能自閉症やアスペルガー症候群、高機能広汎性発達障害などと分類していました。それらを総称して、自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害と呼びます。   2005年に施行された発達障害者支援法のなかでは、発達障害を「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠如多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢に置いて発現するもの」と規定しています。 発達障害には様々な特性や症状がありますが、どれも先天的な脳機能により引き起こされると考えられています。しつけや育て方によって発症するものと誤解されている時代もあり、辛い思いをされた保護者の方も多くいらっしゃったようですが、今では先天的な特性であることが広く知られつつあります。   学習障害(Learning Disorder:LD)とは、知的な遅れが見られないにもかかわらず、「読み」「書き」「算数」などの基本的な学習能力のいずれかの習得と使用に著しい困難を示す状態を指します。 文部科学省の定義では、上記の能力に関して、小学校低学年において一学年以上、高学年以上においては二学年以上の遅れが認められる場合に、学習障害を疑うことになります。   ①読む ◆単語を一つのまとまりとして読めない(一文字ずつ読む) ◆読むのがたどたどしく、遅い ◆自分がどこを読んでいるのか分からなくなる ◆文字や行を読み飛ばしてしまう ◆似ている文字を区別できず、読み間違える ◆特殊な発音ができない(促音「っ」や拗音「しゃ、しゅ、しょ」など) ②書く ◆漢字が正しく書けない(鏡文字になる、線が足りないなど) ◆文字の大きさや形がバラバラになり、バランスとれた文字を書けない ◆書き取りの速度が極端に遅い ◆マス目や罫線から文字がはみ出る ③算数 ◆数の概念を理解することができない ◆暗算ができない ◆九九が覚えられない ◆繰り上がりや繰り下がりの計算ができない   発達障害は、「うつ病」に代表されるような精神疾患と混同されることがあります。精神疾患は、精神的ストレスや本人の特性など、多様な原因で後天的に発症するものです。 発達障害は生まれつきの脳機能の特性によりハンディキャップが生まれる障害であり、幼少期から特性があらわれます。その点が、発達障害と精神疾患の大きな違いになります。   現在、発達障害を完治させる手段はありませんが、発達障害によって引き起こされる困り感を軽減することは可能です。適切な対応や対策をとることや、環境をより適した状態に変えるといったことで、困難さを和らげたり、持っている力を発揮しやすくすることもできます。   自閉スペクトラム症という概念を理解するために、まずは簡単に自閉症の変遷を辿ってみましょう。 1943年にアメリカの精神科医レオ・カナーは、言語によるコミュニケーションが難しく対人への関心も乏しい子供たちの症状を「自閉症」と名付けました。そのため、「自閉症は知的障害を伴う」ということが以前はその前提として考えられていたのです。   しかしその後、カナー型自閉症以外にも、自閉症と同様の特性がありながら、言葉によるコミュニケーションが可能で、知的な遅れが目立たない高機能自閉症(アスペルガー症候群)の存在が知られるようになります。 カナー型自閉症と高機能自閉症(アスペルガー症候群)は、一般に知能指数(IQ)のスコアによって区別され、IQ85以上(より広義には70以上)を指して高機能自閉症やアスペルガー症候群と呼んでいました。 アスペルガー症候群は、ハンス・アスペルガーというオーストリアの小児科医の名前にちなんでつけられた診断名です。   カナー型自閉症に加えて高機能自閉症(アスペルガー症候群)の存在が明らかになったことで、イギリスの児童精神科医ローナ・ウィングは、上記のような様々な障害に共通する基本的で大きな特徴に気付きます。 そして、カナー型自閉症も高機能自閉症(アスペルガー症候群)も別個の障害ではなく、自閉症という、重度から軽度までに至る連続体(スペクトラム)なのだと考えました。知能や症状に高低や強弱といった連続性があることから、一連の自閉性の障害を包括して、「自閉症スペクトラム」と呼ぶことにしたのです。

このような経緯を経て自閉症の概念が拡大されたことで、共通点が不明瞭だった様々な事例が自閉症に含まれることになりました。自閉症スペクトラムという用語はその後広く受け入れられ、現在は国際的な診断基準でも知的障害があるかないかで区別せず、「自閉スペクトラム症」として考えることが一般的になっています。

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