2019.07.16
こちらではソーシャルスキルトレーニングVR「emou(エモウ)」のおすすめ支援プログラムを導入企業社様からのお話や当社で実施したセッションの様子をもとにご紹介します。 今回は学齢期向けのコンテンツ「ピンチのときに」(援助要請)です。
<コンテンツ内容>
休み時間。教室で同級生たちが楽しそうにおしゃべりをしています。 席にいる<自分>はなんだか体調が悪く熱もある。 そんなとき、先生が教室に入ってきて言いました。
先生「みんなが楽しみにしているテストの時間だ。席につけ」
友達「先生、俺おなか痛いんですけど~!」
先生「こら、ふざけるんじゃない!じゃあみんな始めるぞ~」
こんな時、あなたはどうしますか?
①援助要請がしにくい状況
このソーシャルスキルトレーニング(SST)のテーマは「困っているときに援助要請ができるか?」です。 VRコンテンツを進めていくと選択肢が出てきます。
●先生に体調不良を伝える
●つらいのでその場で寝てしまう
●ガマンしてテストを受ける
「こんな時どうする?」
旧来のソーシャルスキルトレーニング(SST)にもこういった内容のものがたくさんありました。 文章とイラストでシチュエーションを説明したり、ロールプレイで一緒にやったりすると、多くの子は
「先生に体調不良を伝える」
という模範解答をだすことができます。
では、VRの場合だと何が違うのでしょうか。
・360度が広がっている教室 ・同級生たちのふざけた感じ ・授業がもう始まるのだという雰囲気 リアルな「言い出しにくい」状況が再現されます。
実際、体験会では多くの子が
「黙ってそのままテストを受ける」
という選択をしました。なぜなのか理由を聞くと
「ふざけていると思われたくなくて、言い出しづらかった」
これまでのソーシャルスキルトレーニング(SST)では、「プリントに正解がかけたね!OK、OK」となっていました。 VRだと、そのシチュエーションにおける心理状態をリアルに再現することで 言い出しづらい・・・そのうえで、じゃあどうしようか? というリアルな処世術を考えることができ、行動/判断の般化が期待できます。 また、「先生に言うこと」が現実世界では必ずしも適切な行動なわけでもありません。 シチュエーションをリアルに体感でいるからこそ、 どういう場合なら言う? どういう場合なら言わない? という議論が深まります。
②友達の気持ち。表情を読み取ろう
友達「先生、俺おなか痛いんですけど~!」
明るいおふざけキャラ、コウタくん。 これに対しVR体験をした子どもたちは
●「クラスにこういう子いるよね~」 ●「いつもふざけていて本当に嫌だ」
●「この子のせいで言い出せなかった」
という反応…。確かにそうですよね。 ここで、「コウタくんは、あなたが体調が悪いのは知っていたのかな?」と問いかけたところ、なんと子どもたちは
「絶対知っているに決まっている」
というお返事の多さでした。 そこで、支援スタッフがモニターに映像を映しだし、<自分>が体調不良であることを先生に告げたときの友達の言動・表情をみんなで一緒に確認。
「あ、心配してくれている」
この振り返りが、現実世界だとなかなかできないことですし これまでのソーシャルスキルトレーニング(SST)だと表現しきれない部分です。
ここまできて、初めて「じゃあなんでこの子は、体調が悪いなんて言ったのかな?」というお話ができます。 特に自閉症スペクトラムの方は表情や暗黙の了解など「目に見えない意味」を理解することの苦手さから、他者の心を類推することが苦手です。 また、自分と他人の境界線が曖昧なので自分が知っていることは他人も知っているだろうという誤解をしやすいという特性もあります。 今回の例で言えばコウタくんは自分の状況など全く注目していない、先生や周囲とふざけているのを楽しんでいる、という様子から
「お腹が痛い、と言ったのは単なるおふざけで深い意味はない」
というのが類推できるはずですが、自閉症スペクトラムの方は
「自分は体調がわるい。なのに目の前の子はふざけている。自分が体調が悪いのをわかっていてあんな振る舞いをしているんだ」
となってしまう傾向があります。 コウタくんも悪気があったわけではなく、確かに不謹慎かもしれませんが、現実世界ではこれくらいの状況は多々あります。このタイミングであなたが体調不良だと伝えたら疑われる可能性もあります。 先生に体調が悪いことがちゃんと伝わるかもしれないし、伝わらないかもしれない。 じゃあ伝わらなかったら…。 これくらい、現実に即した話がVRによるソーシャルスキルトレーニング(SST)だとできるようになります。 他者視点で考える、というのはとても難しいことです。 ですが、着目するポイントをひとつひとつ紐解いていけば、発達障害の方々にもきちんと伝わります。
※この記事はTEENS(株式会社Kaien)スタッフブログをもとに作成しております